AVALANCHE EXPERIENCE

私の雪崩体験
真壁章一(聞き取り=西原彰一)

illust.nishihara syouichi
 
 えーと、何年前かな、ニシアズマで大量遭難のあったあの大雪の時です。
僕らはそのすぐ近所、三岩岳を登ってたんですがとにかくものすごい降雪でし
た。
午後の二時頃ですか、後ろから突然ものすごい風をうけたような感じで、気が
ついたら埋まっていました。

そのときまず最初に思ったのがとにかく脱出しなけりゃということです。
ところがまずザックが引っ掛かって身動きができない。
僕はいつもポケットに一番簡単なナイフを入れていますのでそれをとにかく取
り出してザックのショルダーストラップを切りました。
それから今度はスキーです。
スキーピンはスキーの板ごとビンディングを握ると外れますのでそれはよかっ
たのですが、困ったのが流れ止めです。
ワイヤー式ですからナイフで切るわけにもゆかない。

何とかはずしましたが、細引にプラスチック製のバックルを付けたものなどが
アメリカなどには多いようですが、なるほどと思います。
 
ようやく脱出しましたが、気がつくと女房が埋まったままなんです。
自分でも意外なくらい冷静でしたが、僕の後ろを登っていたはずだからかなら
ず後ろにいるはずだと思い、とにかくデブリを全部どけてやろうと思ってスコ
ップを振り回しました。

そうしたら、見つけることができたんです。
もちろんビーコンは持っていましたが、それより先にからだが動いていました
。

 大事なことはとにかく生き抜こうという意志ですね。
脱出するときもそうですが、もう足が折れてもいいと思ってめちゃめちゃに足
を動かしていましたね。
女房を引きずりだしたときもそうです。「痛い、痛い」なんていってましたけ
れど、とにかく脱出しなければならないわけですから。
足の一本くらい折れてもはってでも帰る!ってほんとに思わないとだめです。

実際そういう記録のもあるんですから、ほんとに気力の問題です。

 大事なことは、パウダーなんかをすべっててね、ものすごく気分がハイにな
っているときでも、絶対に100パーセントそっちに行ってしまわないように
自分を律することです。
パウダーを滑るということは多少でもそういうリスクを背負うことなんです。
周囲の状況、天候、地形に常に注意を払う。

それから、これは本当に大事なことですが、自分の体力があとどのくらい持つ
のかという自覚をしなければいけないと思います。
これは難しいことなんですが、最悪の自体に陥ってしまっても、とにかく脱出
できる体力と気力を維持しているということです。

安易な精神論と一緒にされると困るのですが、「生きたい」と常に思うことは
絶対に必要です。
そして、それは大変に困難な場合もあります。
しかし、それを可能にするのは気力です。
  

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