WHY DON'T I CLIMB INDOOR-WALL?

僕はどうしてインドアクライミングをしないのだろう
黒川晴介

YOSEMITEで
 

「なぜ僕はインドアクライミングをしないんだろう?」
これは「なぜ僕はたばこを吸わないんだろう?」とたいして違わない理由です。「体に悪いから」で
も「お金がないから」でも「いかさない」からでもありません。むしろ人が何かを能動的に行なうに
は理由があっても何かをしないのはそんなに深い理由はないと思います。まあ、あえて言えば、たい
して興味がないからでしょう。逆にインドアクライミングを定期的にする人に聞いてみたらどうで
しょう。「おもしろいから」「健康のため」「ロッククライミングのトレーニングとして」等々の理
由があるかもしれません。

じゃ、僕はなぜロッククライミングは好きなんでしょう。Because it's funでしょう。インドアと
アウトドアの違いは何でしょう。太陽があたるから? やはり人間も動物だからある程度太陽光線は
必要です。メダカを飼う場合、太陽をあてるのとあてないのでは成長スピードにずいぶん違いがあり
ます。カメを育てる場合、太陽をあてないと上手く育てられません。でも、そんな単純なもんじゃな
いでしょう。

僕の大好きなロッククライミングはやはり、自分でプロテクションをセットしながらのクラック
クライミングです。もちろんペッツェルボルトで安心して登るのも悪くないけど、すべての
プロテクションを自分でセットして、あるルートをフラッシュした時、僕は大いによろこびを感じま
す。

おそらく僕はロッククライミングという行為にある程度の不確かさをみつけ、そのなかでよりよ
い自分の姿勢を見いだす事によろこびをかんじているんだと思います。2回目に5.11をレッドポイ
ントするより5.10をフラシュした時の気分が良いんです。

これは僕の登山観にもつうじています。
前回ひとりで登ったヨーロッパアルプスの山々や、NZのマウントクックをもう一度登りに行った
ら、よほどひどいコンディションでなければ、かなりたいくつでかんたんな登山になってしまいま
す。でも、最初の一回というのはすべてが未知で、不安や恐怖にさいなまされながらもなんとか頂上
をめざす自分を見つける事ができます。もちろん2回目の登山にも様々なよろこびがあります。良い
パートナーと共有する時間、ある種余裕をもった1日の中で思いつくつぎのプラン…。

けれど、やはり僕にとって重要なのは「その瞬間においてのみ可能なある限られた体験」なのです。
もう2度とありません。

トレーニングしてより難しいグレイドが登れるようになれば楽しめるルートもふえるでしょう。で
も僕にとって大切なのは「いくつのグレイドを登ったか」より「自分がそのクライミングからどんな
印象を受けたか」なのだと思います。結局僕にとってインドアクライミングはロッククライミングを
より楽しむための手段にはなりえてもそれ自体を自分の目的とはなしえないという事です。

だから、チャンスがあればやるけれど、わざわざ時間をさいてやりに行く事はあまり考えられない
という事です。

 実際問題、雪の季節になると、テレマークスキーに忙しくなるので、クライミングそのものがお留
守になってしまうのです。雪山のバリエーションにいったりもしますが、乾いた岩のクライミングとは冬の間しばらくご無沙汰になるのです。そして、それはそれで仕方がないことなのです。

  

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