WORDS OF MASTER

幻の『氷雪テクニック』のあとがき



 

  木本 哲
  
 本に載らなかった幻の『氷雪テクニック』のあとがき

   ケニヤ山のダイヤモンドクーロワールを十一年ぶりに登った。前回はほとんど一人でリ
ードして登ったのだが、今回はその逆でほとんどリードしてもらって楽をした。前回はで
きるだけ難しいところを選んで登ろうという気概があったせいもあるのだろうが、その時
よりいい道具を使って登ったにもかかわらず、今回は「あれ、こんなに悪かったかなあ」
という感情の連発だった。

   その原因にはトレーニング不足というのも確かにあった。しかし、氷雪の登攀というの
は技術や体力だけではなく、天候や精神的な部分も大きい。だから楽した分だけ余計難し
さを感じてしまったのかもしれない。氷雪の登攀でフォローよりリードの方がはるかに易
しく感じることが多いのもそのためだ。久々に「まいった」というようなそんな経験をし
た。

 とはいえ、それも文章を書く、しかも技術書を、ということと比べると、その苦労はた
いしたことではなかった。だから、正直なところ、この数年悩まされ続けてきたことがど
んな形にせよ終わるというのは実に喜ばしいことであると思わずにいられない。しかし、
氷河の歩行など割愛した部分もあるので、実を言うと素直に喜べないところもある。

   思えばこの数年の間にも氷雪の道具はゆっくりと変化し続けている。それに伴って登攀
技術の方も徐々に変化していかざるを得ない。次の十年はどのように変わるのだろうか。
そう思うと、十年後再々度赤道直下のケニヤ山にアイスクライミングに行くのも悪くはな
いなと思う。

 最後になりましたが、多大な迷惑と苦労をおかけした、山と溪谷社の伊藤文博氏、編集
の野村仁氏、写真の川崎博氏など、この本の出版に携わったすべての方々に深く感謝いた
します。
 

BACK TO "Beyond Risk" PAGE(寄稿とお便りページの目次へ)
BACK TO TOP PAGE